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医師不足は避けられますか? 国は何をし、地方はどうしたら良いですか? 医師はどうすべきで、患者は何を求めますか?
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山梨日日新聞6月25日の記事からです

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山梨大指導で分娩再開断念 塩山市民病院
「常勤医1人では緊急時対応不十分」
既に予約、市民に不満

http://www.sannichi.co.jp/local/news/2009/06/25/2.html
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まず、常勤医1人のところでお産を取り扱う事自体、現在のJBMに照らせば
阿呆な事です。

勿論医師一人でお産を取り扱う施設は現在の日本でまだまだ多く存在します。
ですが、それは百歩譲って考えてみても
あくまで、医師一人が自分の経験と技量、いわば裁量を以って、可能な範囲の
分娩を取り扱っている場合に限り、現在も許容されているに過ぎません

正常分娩と言うのは結果論です
順調なお産だなあと、呑気に構えていたすぐ後に

1)心音がた落ち。血性羊水じゃばじゃば・・・
2)頭がSt+1から全く下がりませんが・・・
3)出た!臍帯が先に・・・
4)頭が出たけど、肩がどうしても抜けません・・・
5)押しながら吸引しても滑脱3回、吸引6回、20分経過・・・
6)会陰が切れてます、それはもう無残にぼろぼろに・・・
7)何とか生まれた後直腸診をしてみたら、肛門から膣内に指がこんにちは・・・
8)頚管裂傷が3時と9時で、円蓋部までズバっとね・・・
9)胎盤が出なくてちょろっと牽引したら子宮内反が出来ました・・・
10)胎盤用手剥離で無理に剥がせば癒着胎盤・・・
11)生まれた赤ちゃん、泣かず泣かずでpink upしてくれません・・・

なんて事が今日起こるかもしれませんし、明日起こるかもしれません
そんな確率を全てするっと乗り切って、無事に終了した時点で初めて正常分娩
と言う事ができるのがお産です

そして、それを
吸引したり、縫合したり、麻酔をかけながら修復したり、バッグアンドマスクしたり
いざとなったら帝王切開で何とかするのが産婦人科医です

その帝王切開を一人で出来る産婦人科医も、確かに多く存在します
一人で麻酔をかけて、一人で執刀して、一人で新生児を蘇生する産婦人科医が
今日もどこかで頑張っています

でも、それはもはや伝統技能になってきていますし
そうなって当然の、過去の武勇伝に過ぎません

「どうして、そんな危ない条件で手術をしたんだ!」
「搬送していれば助かったのでは?」
「医師一人だなんて聞いていない!」

何かトラブルがあったらすぐに、新聞沙汰になる事が容易に予想されます

一人で麻酔をかけて、一人で執刀して、一人で新生児を蘇生する、いわば
一人前の産婦人科医においてすら
そんなトラブルに見舞われる可能性は、確率的に有り得ます

そんなお産を
A)助産師主体で取り扱う
B)何かトラブルがあったら、院内にたった一人の産婦人科常勤医に助けてもらう
C)それでも解決しなければ、緊急時は近くの診療所の産婦人科医と、系列の病院の
麻酔科医に協力してもらう

と言うのがこの病院の絵に描いた餅だったわけです

うーん

どんな経過かもわからない中、急にトラブったと助けを求められ、
産婦人科医が立ち会っていれば、それなりに対応できていた処置も当然されておらず
→「いわば未経験の惨状の中」
そんな中、最終責任は医師である自分に結果責任として跳ね返り
近くの診療所の産婦人科医、系列の病院の麻酔科医が何分で到着するかもわからず
周囲からは「何とかしろ。その為の医者だろう」的な目で見られながら
焦りながらも呆然と立ち尽くすたった一人の医師

考えただけで鬱な図です

そんな一人医師の立場に、身を置けない事自体を責める事ができる輩は
そんな奴は・・・、そんな奴は・・・
本当に何なんでしょうか・・・

自ら重荷を背負う覚悟のない者に、他者を非難する資格はない→市民に対し
自己完結出来ないならば、主体的にお産を取り扱う資格はない→助産師に対し

まあ、自己完結と言う点では
一人で麻酔をかけて、一人で執刀して、一人で新生児を蘇生できる産婦人科医
のみ、という事になりますが、今後天然記念物になるのは確実ですし
そのような医師を育てる事は本末転倒な議論です

つまり、複数の常勤産婦人科医を置かない施設で、お産を取り扱う資格は
原則ないと考えます

その流れに逆行する塩山市民病院の計画が頓挫したのは当然ですし
山梨大の指導も当たり前の対応です

それに対して市民が不満を感じるならば、それはもう
どうしようもありませんね



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コメント
コメント、トラックバック、ありがとうございました
一昔前までなら、公立・公的病院であっても、常勤の産婦人科医1名の体制で分娩を取り扱うのはごくごく普通のありふれた状況でした。

しかし、長期的に実働の産婦人科医の総数が減り続けて、分娩施設の急減が全国的に問題となり、若い医学生や研修医が専門診療科として産婦人科を敬遠する傾向も顕著でしたので、日本産科婦人科学会も、産婦人科医を増やすためには産婦人科医の勤務環境の改善が急務として3年前に、「ハイリスク妊娠・分娩を取り扱う公立・公的病院は、3名以上の産婦人科に専任する医師が常に勤務していることを原則とする」との緊急提言を発表しました。

最近では、全国的に分娩施設の集約化が進行しつつあり、産婦人科医1~2名体制の公立・公的分娩施設はかなり減ってきていると思われます。産婦人科医1名の体制で分娩を取り扱っている先生方もまだまだ少なくないですが、長年1人医長体制で頑張ってこられた経験豊富な先生方が多いと思われます。今の若い先生方にそれを強要することは絶対に無理だと思います。

日本産科婦人科学会の地道な多方面の努力の成果もあり、最近では「産婦人科を第一に考えています」と元気に答えてくれる若い医学生や研修医の数がだんだん増えてきている印象もあります。多くの大学で産婦人科入局者数が増えているようにも聞いてます。

地域によっては、産婦人科の勤務条件改善の必要性が全く理解されず、1人でも産婦人科医を確保すれば分娩の取り扱いを再開できるという考え方に立って、産婦人科医確保の努力を行っている自治体や病院の事例も、時々報道されています。 もしも、産婦人科の集約化が全く進まないまま、個別の自治体や病院の努力で一人医長体制の産婦人科が復活するだけの状況が続けば、産婦人科の勤務条件はますます悪化するばかりで、母児の安全も確保できませんし、新人産婦人科医も増えないでしょう。 暗黒時代から脱出するために今、我々はどうしたらいいのでしょうか?その一つの回答が日本産科婦人科学会のこの提言だと思います。多くの人に知ってもらいたいです。
【2009/06/28 10:14】 NAME[ある産婦人科医] WEBLINK[URL] EDIT[]
無題
ある産婦人科医様

コメント・トラックバックこちらこそありがとうございました。

産婦人科医不足対策には学生・研修医のリクルートが必要不可欠ですが、未だ1,2人体制の病院が多くある事も彼・彼女達が二の足を踏む大きな原因だと考えます。

分娩経過が全て正常であった結果論で「正常分娩」となるわけですから、陣発=緊急疾患でのcall同様緊急対応が必要になります。
それがほぼ毎日発生する産婦人科において1,2人体制で対応するというのは現在の状況を鑑みるに「避けて当然」の「自殺行為」状態です。

それでもそうせざるを得ないのが日本の現状ですが、一刻も早く是正される事を望みます。
【2009/06/29 23:23】 NAME[trias@管理人] WEBLINK[URL] EDIT[]
やっぱり医師側の視点はずれてます
いきなりこんなことを書いて反発を煽るようで申しないですが、先生のブログの「医師不足」というのはやはり医師の上から目線でしかないなあ、というのが正直な感想です。

何が「医師の資格は最強で」「職にあぶれることはまずありません」ですか。医療の将来を憂いているようでも、こういう視点が根底にある限り、一般大衆の同意が得られないのは当然です。そんな医師はさっさと海外に行けばよろしい。

では、まず何が、「ピントがずれている」のかというと、(過去のブログから)

誤解1・庶民は高いレベルの医療を求めている
未曾有の経済危機が進んで、医療費の税負担どころか、健康保険にすら入れない人々が多くいる現状をご存知ですか?
医療のレベル以前に医者にかかれない、マツキヨの薬すら買えない人々が大勢今の日本にはいるんです。それも若い世代でも。先生方はご存じないでしょうが。(それなら生保を受ければいい?それが出来れば苦労しませんね)
そんな人たちに、医師の給料・待遇をを上げないとどんなことになるか・・・といったところで脅しにも何にもなりません。安くて質の悪い、それこそ看護師並みの(先生曰く)「ミニ医師」でもいいんです。なぜなら医療をまったく受けられない今に比べれば、それがどんなものでも受けられるだけましだから・・・

誤解2:国家政策は医師不足の解消しようとしてるのに、ぜんぜん的外れ
そもそもの話ですが、本当に医師不足を中央政府は解決しようとしてるのか、という点です。地方自治体や医師会側は本気でしょうが(倫理観や使命感、あるいは金のために)中央では医師不足は一定の割合で発生してくれないと困るのです。
後期高齢者制度に現れているように、少子化といっても、すでに国は「役に立たない国民を扶養する余力がない」のです。平たく言えば障害者や高齢者に医療は不要と考えている節があります。1000グラムに満たない超未熟児の赤ちゃんを救うのは大変なことでしょう。しかしいくら医師がコストと時間と労力を使って完璧に治療しても、障害が発生するリスクは高くなります。
社会に寄与しない障害者を生み出す能力時間で、その倍の健常者(実際には数倍でしょうが)を社会に出した方が、国のコスト管理としては正解なのです。そういう弱肉強食・小さな政府の新自由主義は、すでに小泉改革のときから明確にされていましたし、多くの国民はそれに賛成したのです。

口先でどういっていても、「最高の医療で多くの命を救いたい」というのは、もはや国策と国民の総意に反しているのです。(まあ「病院で産んだ子は愛せない」的な雰囲気に流される人もいるでしょうが、重要なのはメディア・新聞は国の(暗黙のでも)意を受けてそういうキャンペーンを張っているということです。新聞はそこまで馬鹿ではありません。でも「偉い」お医者様にはそれがわからないんでしょうね。助産婦で事足りるような正常分娩の健常児以外は不要だという方針の反映です)
日本は自由で多数決の国です。多くの国民が、安くて質の悪い医療を求めているのに、あなたがた一部の医師だけが「高額で質の高い医療」をやたら提言されても、多数決の原則から言うと、少数派のエゴかマニア心理にしか見えません。
「お 金 は 命 よ り 重 い」のです。
医師側は「医師の善意に依存」というが、(一部の)患者側には「善意」と映っているのでしょうか?(自分が犠牲を払う善意なら、当然相手も善意と取るはずだ・・という思想がボンボンというか。善意でやった事を怨まれて射殺、なんてよくあるのが国際標準です)
もしかして、海外でやっていける自信がないから日本にしがみつこうとして、提言を続けている部分はありませんか?訴訟大国のアメリカで長期間高収入を維持するのは結構大変ですよ。

今の状況は仕方ないというより、国民の総意です。
もちろんそれに不満を持つ人にも、ちゃんとそれ以外の道があります。慶応でも聖路加でも、金やコネや権力を使えば答えてくれる病院がちゃんとあります。
個人的にも、医師の給与削減は賛成です。
3割4割カットしてでも、9時6時勤務で、残業は時給で1.25~1.5倍きちんとつく就業体系の方がまともだと思います。
【2009/09/02 18:51】 NAME[微妙] WEBLINK[] EDIT[]
追記(今の日本は・・・)
>3割4割カットしてでも、9時6時勤務で、残業は時給で1.25~1.5倍きちんとつく就業体系
もちろんオンコール非対応、残業なし推奨で。
「患者のために」なんて、耳当たりのいい理由は不要です。時間が終わったらさっさと帰宅。
・・・で、いいんじゃないかな。

知り合いの母親は手当ては受け取っても、子供が重い病気にかかったときに、治療費踏み倒して入院拒否。それ以来医者には行ってない。
口では「病院や現代医療は信用できない。自然治癒で直してみせる」
でもべろべろに酔っ払ったとき(病気の子供を置いて酒)に、彼女曰く「子供は死んでもまたいくらでも産める」ってさ。こういう世界もあることをお忘れなく。まあ、病院にはあまり来ないからみえないですかね。
金がある人は、志や理想をもてる。でもね、金のない人は金のためなら何でも犠牲にする、命でも愛でも。この両者で理解しあえないのを嘆く事が、そもそも金持ちサイドのご立派な理想にしか思えません。
30年もすればみんな慣れます「私は子供を10人産んだけど、生きているのは2人だけ」なんて世界に。
そもそもこの不景気に理想を求めすぎです。
【2009/09/02 18:57】 NAME[微妙] WEBLINK[] EDIT[]
お返事
NAME[微妙]さん

コメントありがとうございます。
ご意見が当ブログ主と合わないのは残念ですが、そこは立ち位置の違いだと思います。

あくまで医師側(特に産婦人科領域)から要望を多分に含んだブログです。
それをよそに世論は形成され、政策として臨床現場に影響してきます。

世論を無視した政策は立案されようと動きませんし、また臨床現場を無視した医療政策の立案は現実的に不可能です。
その摺り合わせによって日本の医療政策は決定されることに異論はありません。

このブログでの意見が世間での多数派であるとも思いませんが、例え「大衆」の多くの同意を得られなくても現場で実際に感じる意見である事に違いありません。

これからの日本の医療政策(民主党を主体とした)がどう進むのか、興味深くはあります。それに対し現場で感じる事を書き綴りたいと思います。
【2009/10/04 22:30】 NAME[trias@管理人] WEBLINK[URL] EDIT[]


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