獨協医科大学神経内科
小鷹昌明 (おだかまさあき)
http://mric.tanaka.md/2008/11/27/mric_vol_178.html
医師不足と言うけれど
自ブログ内リンク
「08年医療崩壊進行中」
http://trias.blog.shinobi.jp/Entry/38/
似てます?
医師不足は避けられますか?
国は何をし、地方はどうしたら良いですか?
医師はどうすべきで、患者は何を求めますか?
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医師不足です
どれだけ医師不足かと言うと 産婦人科医1-2人体制 常勤麻酔科医不在 小児科医不足の為の新生児もある程度まで産婦人科管理 てな病院がまだまだ日本には多く残っています これがどれだけリスクの高い事か… 幾ら産婦人科医不足、医師の労働環境是正がマスコミを通して訴えられようと 幾ら産婦人科にまつわる常識外の民事・刑事訴訟で現場の医師が訴えられていようと 今なおこんな病院が日本各地に散らばっている事に眩暈を覚えます… 今現在、そしてこれからも 患者が望むのは、マスコミが当然視するのは「安全な医療」です 現場で働く医師にとっても、それは渇望する事ではあります ですが、それを具現化するには「マンパワー」が必要です 反して、地方におけるこのような病院は地域住民の「アクセス重視」の要望により 存続している弱小病院です 医局派遣の医師達も「医局の強制」により派遣されている状態です そもそも存続させる事のみが目的化している病院において、 零細医局から更なる追加派遣医師が加わる事はありません 「強制」にてようやく最低限の医師数が維持されている現状です 「死ぬわけではないけれど、希望を持てる職場ではない」 誰が悪いというわけではなく そこに病院がある事自体が悪いのでしょう 病院があれば地域住民は期待します 期待があるからこそ、予想外の事態が生じた時悲嘆にくれます そしてその反発が医療訴訟につながります 本来あるべきところではない所に、病院が存続している事が問題なのでしょう かつてのパターナリズムが幅を利かせていた旧医療現場では、そんな病院にも 存在価値があった事だと思います そんな病院で働く医師たちにおいても、不便を感じつつストレスの度合いは現在より 随分低かった事だと思います 患者・地域・マスコミの期待値と、そんな病院が提供できる医療レベルがそれなりに マッチしていた結果でしょう ですが、現状においては日本全国津々浦々、どんな場所においても標準以上の医療 が要求されます それからはみ出した結果が不幸な転機となれば、待ち受けるのは警察の介入です 最初に戻ります 産婦人科医が1-2人しかいない病院とは ・24時間365日常にオンコール、休み無しの状態です ・緊急症例が2例重なれば容易にキャパオーバーとなる状態です 常勤麻酔科医不在とは ・緊急帝王切開は産科医自らが麻酔をかけ、麻酔管理をしながらの手術です ・緊急全麻手術は外科医などに麻酔をかけてもらっての手術です 新生児の産婦人科管理とは ・babyに何かあれば褥婦・新生児の両方を相手に闘わなければいけない状態です ・夜間に新生児に異常があると産婦人科医が呼び出される状態です そんな病院では産婦人科医は産婦人科医・麻酔科医・新生児科医の3つの顔を 持つ事を強要されます そんな病院で、マンパワーがある程度保たれ、産婦人科医の職務に専念できる施設と 同等の医療を提供せよと、他科(麻酔科分野・新生児分野)においても標準的な医療は 提供せよと、そう求められている現状です 明らかにそれは無理なのです ですが、その無理が今現在も、日本全国でまだまだ残っています 地域の人はそれでも良いから、取り敢えず病院があれば良いと納得しての事ならまだ 理解可能です ですが、仮に何か問題となる事があれば 「そんな危険な病院だとは知らなかった」 「そんな病院で医療をやっている事が問題だった」 と責められる事は容易に想像できます 安全な医療を求めれば 自分にとっての病院へのアクセスの良さを犠牲にする必要があると そんな覚悟を持たず 今と変わらない安全な医療を、今と変わらない利便性で享受できる いや享受して当然と そんな風に考える人が地方に存在し続ける限り こんな病院はいつまでも存在します そしてそんな病院にいつまでも医師は幽閉されます そこに病院がある事自体が悪いのに ですが、現実的には医師がどんどん辞めているので、いくら地域住民が望んでも スパッと医局総引き揚げはいつでも起こりうるのですけどね 早くそうなって欲しいものです PR
あけましておめでとうございます
新年1回目の更新です 今年こそ、目に見える形で医師不足を取り巻く環境が改善して欲しいと 願いますが、おそらくこの1年も現実的に改善は無理でしょう 小さな変化が現場に及ぼす影響は小さいままです 焼け石に水の対策はされないよりはましですが、現場のモチベーションを 上げるには程遠いままです 向こう数年で医師不足を劇的に改善する方法はありません どんなに政府・各党・地方自治体が対策を取っていても 悲惨な現実を短時間で改善させる対策は、今もって挙げられていません それは、その方法がないからです 「こうすれば今すぐ解決する」 そんな事を言う人の提案は、非現実的な提案でしかありません そんな提案が現実的に取れるのであれば、既に実行に移されています そうであれば 前提となるのが「現在の医師不足環境の短期改善は不可能」 すなわち「現場の医師が背負う負担は中長期的にこの先も続く」 と言う厳然たる事実です もともと医師不足対策については多くの医療系ブロガーによって 崩壊は防げ得ない、焼け野原状態になる と言う諦めにも似た予想が以前からされていました 現場の医師が感じる医療崩壊・医師不足の皮膚温度は敏感です 1人の欠員によって自らの身に加わる負担の重みを考えれば 敏感にならざるを得ません 個々の医師の頑張りでカバーできる期間も、確かに存在していました その次のステップとして、医療スタッフに負担を強いる期間 そして患者がやや不便を感じる期間 最終的に患者が路頭に迷う期間←今ここ 医師、コ・メディカル、患者、一般市民、報道機関、行政 それぞれが医師不足・医療崩壊を実感として感じられる皮膚温度は だいぶ異なっています 一般市民からすると、医師不足・医療崩壊をマス・メディアの報道を通し 耳に入ってくる機会が増えたのは2,3年の短い期間であったかもしれません。 短い期間で急に進行してきたとの錯覚を覚え、何らかの方法で短期での 改善が可能との幻想を持ち得るのもわかります ですが、現在に至るまでに各業種の臨界点を超え ようやく一般市民の皮膚温度にまで達した現状は 既にpoint of no returnを超えてしまっています 現場の一産婦人科医としては、そのpointを超えてしまっている現状 イコール「少なくとも向こう数年の労働環境改善が望めない」 となりますから、今後に対して悲観的にならざるを得ません どこからも援軍の来ない前線で、どこまでも過重労働に耐えろと そう言われて頑張り続ける理由があるほど、分娩を取り扱う産婦人科医 は恵まれた職業ではありません 「嫌ならやめろ」 と言われてもおかしくありません。本当に。 ですが幸い分娩取扱いを辞めても婦人科、不妊内分泌など、働ける環境は 産婦人科医には幾らでもあり、実際多くのDrが逃散しています 医療圏から数人の医師が去るだけで、壊滅的な状況になる事が確実な地域 が現在日本に多く存在しています 今日も現場で働く医師たちの心の糸がぷっつり切れて 明日離職を決定するかもしれません そんな中、医師のモラル不足、赤ひげ待望論、頑張れば何とかなると言った 周回遅れの議論や 医師は被害者意識を捨てよ、などの現場無視の言説が 何を生み出し、何を破壊するのかは興味のあるところです Point of no returnを超えてしまっている現時点においても 当然医師不足に対し中長期的な対策はなされるべきです ですが、短期においては患者に負担を強いざるを得ませんし それが一番有効的な対策だと思います 簡単に言えば ・夜中の病院には重症患者以外来させない →例えば加算1万円を払ってでも受診せざるを得ないと思う 切羽詰まった患者以外に夜間の病院を受診する資格はありません ・緊急手術を緊急で出来ないのが今の日本 →緊急帝王切開を手術決定後30分で開始するなんて妄想は 今の日本では通用しません ・待ち時間は長くて当たり前 →あなたの患者の前に呼ばれた人が、あなたの待ち時間の原因で あなた自身が、次の患者の待ち時間の原因です ・病院は遠くて当たり前 →近くに総合病院があって欲しいなんて贅沢は望めないのが 今の日本です ・一生に多くて数回のお産の時位不便さを甘受する →病院が遠くて不便なら、病院の周りに住む位の意識がこれから 必要です まあ、どれを取っても不平・不満に押されて諦めてもらう事など 難しいですが 嫌なら辞められる医師と 嫌でも受診せざるを得ない患者 現実的に短期の改善を望むなら、無理を通すしかないのですが。 それが嫌で、いたる所で焼け野原、というのも平等日本の一つの形 ではあります 今年の流れはどうなるでしょうか
医師不足続きの1年でしたが
この1年で何が変わったでしょうか 確かに医療崩壊・医師不足の報道は毎日のように新聞紙を賑わし 様々なメディア・コメンテーターが医師不足について発言してきました 勿論医療従事者に取って望ましいニュースもありました 一番大きなニュースはいわゆる大野病院事件に対し無罪の判決が確定した事です。 また東京都では都立病院の医師に対する給与引き上げ 各地域で産科医に対する分娩手当などの待遇改善がなされるなど 勤務医の労働環境改善に対するコンセンサスが醸成されてきた事に、疑問はありません 一方妊婦受け入れ不能の顕在化 公立病院の休院、産婦人科・小児科の休診など 医師不足が医療へのアクセス悪化と言う点で更に顕在化してきた一年でした ですが、実際産婦人科の現場に身を置く者としては 世間で一般に騒がれている程、現実世界においては労働環境の変化を全く感じない そんな1年でした それは決して望ましい意味ではありません 当直回数は全く減らず、月10日以上 拘束回数は全く減らず、当直と合わせて月20日以上 分娩数は周囲の開業医のお産取扱中止によって増えますし 手術件数も前年比増 給与が増えるわけでも、手当が新設されるわけでもなく 各職種は仕事の中身を変えたくないと、移譲したい仕事は引きうける気配なく 診断書は住所記載、病名ICD分類記載、術式に当てはまるKナンバー記載は煩わしく 雑用から専門的な仕事まで、ごちゃ混ぜになった労働環境が改善された感はありません 産婦人科医療に対するインセンティブがつけられた感もありません 勤務医が実感として改善を感じるまでには 現場まで改善の恩恵が降りてくるまでには まだまだ時間が必要なようです 順風と逆風が渦巻く中 現場の産婦人科医・勤務医にとって、見える範囲は限られます 地平の向こうから、遠くから援軍が迫っていても 視界に入ってこなければ、それは来ないのと同義です 電波で送られてくる援軍情報も、期待とデマが混じった不確かな情報で 日常に耐える補給となり得ません そんな中で、一人・また一人と前線から現場の産婦人科医が撤退します 戦死するくらいなら敵前逃亡もやむなし なるほどな、と。 来年こそしっかりとした補給線が確保されてほしいものです 枯渇したままの現場では援軍を待っていますが 途切れたままであったり、滞ったり、細かったり、短かったり そんな補給線では、現状を乗り切れません 目に見える形で援軍を、体を休められるように援軍を 理念ではなくて、具体的に援軍を そうしなければ、焼け野原 SOS,SOS,SOS 師走に現場から援軍を要請します 命を救えるのに救わない事 MRIC臨時 vol 178 「放たれる市場原理主義医療」
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