市民「医者不足の原因に、研修医が大学病院から離れた事が原因と言われてますけど本当ですか?」
他人「それが原因の全てではないですが、一つの要因ではあるでしょうね。」
市民「どうして大学病院に人が集まらなくなったんですか?前までは大半の学生が残っていたんですよね。」
他人「どうしてだと思いますか?」
市民「毎度の事ですけど。大学病院は待遇が悪くて給料が安いからですか?」
他人「それも一つでしょうね。ただ今回の研修制度が始まる前に比べて、研修医の待遇はどこの大学病院でも良くなってはいますが。」
市民「待遇が良くなっているのに、前より人が集まらなくなったのはどうしてですか?」
他人「その前に、大学病院に研修医が集まらなくなって困るのはどういうことだと思いますか?」
市民「新聞の報道では大学病院に医師がいなくなった為、人手が足りなくなり地域に派遣する余裕がなくなってきたという事でした。そう言うマンパワーの不足は困る事ですよね。」
他人「そうですね。ですが、この研修制度が始まってからまだ3年です。例年の1年目から3年目の医師の供給が減った事になりますが、医局の中の構成比としては大きいものではありません。」
市民「どういう意味ですか?」
他人「医局に属している医師数は、50歳半の教授が主宰する教室では1年目から30年目位までの医師の集団です。年度に拠り入局者数の増減はあるでしょうが、今回の研修制度に関連する学年は医局にとって1割程度の人数です。」
市民「1割の医局員が減るだけで、地域での医療崩壊が進むほど元々医師不足だったという事ですか?」
他人「短絡的にそうなるわけではありません。中途で医局から離れる中堅医師数を考慮しなければいけません。ですが、全国でも数少ない有力大学の巨大医局を除いては、多くの地方大学の零細医局ではその1割が大きな戦力となっていた事は事実です。」
市民「そうは言いますけど、輩出される医者の数は変わってはいないんですよね。大学に集まらなくなった分、地域に残っているわけじゃないですか?」
他人「勿論総数は変わっていません。昔から研修制度を敷いていた有力一般病院は未だに研修医に人気ですし、地方でもベッド数の多い研修指定総合病院はそれなりの充足率となっています。」
市民「それ以外の、今医師不足にあえいでいる小~中規模の病院や、地方の救急指定を取り下げなくてはいけなくなっているような病院には研修医は集まってこないんですか?」
他人「そういう病院は元々臨床研修指定になっていなかったり、そのような医師不足の病院では充実した研修をする事ができず余計に若い医師が集まらなくなっているようですね。」
市民「そういう勝ち組病院、負け組病院を生む原因となっているのが、その研修制度なんじゃないですか?」
他人「ですが、そういう病院に研修医を置いたとして果たしてどうなるでしょうか?まだ医師になりたてで、教育が必要な研修医を、ただの戦力要因として期待するような病院は受診する患者さんの立場としても望ましいものでしょうか?」
市民「そうかもしれません。じゃあそういう教育の必要な研修医は大学である程度鍛えてから地域に出て、その間はその教育を終えた4~7年目位の戦力として期待できる医師が派遣できるようになれば良いんじゃないですか?」
他人「今まで大学病院の医局が主導していた医師派遣制度は、その仕組みに似通っていたものだったんでしょうね。確かに教授権力の集中、名義貸し、金銭の不透明な流れなど、かつて医局が絶大な権力を持っていた時は批判されて仕方がない一面がありました。ですが、そういう地域のセーフティーネットとして医局が機能していた現実も認識しなくてはいけないでしょうね。」
市民「じゃあ医局を健全化して、研修医を大学に集めれば全て上手くいくんじゃないですか?」
他人「その大学病院に研修医が集まらないと言うのが、現在の課題のわけです。」
市民「始めに戻るというわけですね。一体研修医は大学病院の何が不満なんですか?大学病院は地域の最先端の医療を誇るエリート集団で、そこで研修する事は研修医にとって魅力じゃないんですか?確かに給料は安いかもしれないけど、学びたいって意欲があればそんなの我慢できるんじゃないですか?」
他人「実際がそうであれば我慢できるかもしれませんね?」
市民「実際は違うんですか?」
他人「大学病院という選択肢には幾つか理由があると思います。出身地に戻り開業を考える場合、やりたい分野で進んだ業績のある医局で学びたい場合、学閥を考えて出身大学と違う大学で学びたい場合、働きたい病院を関連病院とする医局に入る場合など明確な理由がある場合などは数年間の我慢も出来るかもしれません。ですが、初期研修で臨床能力を主に身につけたいとする場合、避ける学生が多いのが現実です。」
市民「何故ですか?臨床能力は大学だと身に付かない訳ではないですよね。むしろ最先端の病院で学ぶ事は貴重な機会じゃないですか?」
他人「大学病院の役割は何だと思いますか?」
市民「患者さんを診て治療する事と、患者さんの為に新しい治療を見つける事と、学生さんに教える事でしょうか?」
他人「臨床、研究、教育の3本柱ですね。その中で研修医の教育も勿論大切な役割です。」
市民「じゃあ良いじゃないですか。それが何で臨床重視の学生が大学病院を選ばないか分からないですよ。」
他人「大学病院の研修医は採血、点滴、それにデータ張りだけ上手くなる。」
市民「何ですかそれ?」
他人「知り合いの研修医が言っていた事ですよ。大学での研修医の役割は何だと思いますか?」
市民「それは勿論知識と技術を学んで、チームの一員として治療に参加する事じゃないですか?」
他人「そうですね。その中で初期研修で必要な臨床技能を身につける事が、今回の新臨床研修制度の目標です。ですが、大学病院を避ける学生は、大学ではそれを学べないからだと言っています。」
市民「何故ですか?その地域でも有数の医者の数、ベッドの数、患者の数を抱える大学病院なら色々勉強できそうじゃないですか。」
他人「多くの医者がいれば実際に研修医が経験できる手技は少なくなり、患者の数が多くても一般病院では稀にしか見る事のない病気が多く、一般的な症例を経験できなかったり、また患者が多ければその分雑務が研修医の主な仕事になるというのが理由の一つです。」
市民「雑務って何ですか?人の命を救う仕事に雑務や雑用なんてあるんですか?」
他人「病院で行われる業務は全て必要な仕事です。その仕事を役割とする職種は必要であり、必要な役目を担っています。ですが、ここで言う雑務とは研修医、医師にとっての雑務という意味です。」
市民「例えばどう言う事ですか?さっき言っていた採血や点滴の事ですか?」
他人「医師になりたての時は採血手技や点滴手技などを学ぶ事も必要でしょう。ですが大学病院の中には1日中採血や点滴の業務のみに追われたり、カルテに検査成績を貼る事ばかり仕事として与えられている研修医もいます。また検査までの患者の移送、薬局まで薬を取りに行く、採血スピッツを検査室まで持っていく、点滴などの調剤・ミキシング、時間外手術の機械出しなど、本来の医師業務
ではない仕事が日常業務の大半に費やされる事も多いようです。」
市民「ですが、どれも必要な事ですよね。仕事としてやるのも仕方ないんじゃないですか?」
他人「確かに仕事を覚える事は必要です。ですが、医師が余っているなら別ですが、この医師不足の中一般病院などでは他職種が行う業務に、研修医とは言え医師が主たる業務として行っている現状は資源の非効率的な利用でしょうね。また、そのように本来医師でなくても行える業務を仕事として与えられる大学病院を、研修先として選択しない研修医が増える原因ともなっています。」
市民「そうして大学から研修医がいなくなって、地域の医者不足にも拍車がかかるわけですね。」
他人「理由の一つにはなっているでしょうね。」
市民「じゃあ大学病院の研修内容を変えれば研修医も集まってくるんでしょうか?」
他人「研修内容を見直せば増える要因にはなるかもしれません。ですが難しいでしょうね。」
市民「どうしてですか?この医者不足の時代、改善していかないと大学病院自体だって困るんじゃないですか?」
他人「そうですね。ですが大学病院は看護師の力が強く、業務の見直しには抵抗が強いでしょうね。またそのような雑務は研修医が行うべきと言う伝統が強く残っている為、急な変更は望めないと思います。」
市民「じゃあどうしたら良いんですか?大学病院に研修医は集まってくるんですか?」
他人「集まる大学病院は更に集まり、集まらない大学病院は更に減っていくでしょうね。」
市民「私達の地域の大学病院はどちらでしょうか?」
他人「どちらでしょうね。」
PR