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医師不足は避けられますか? 国は何をし、地方はどうしたら良いですか? 医師はどうすべきで、患者は何を求めますか?
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産婦人科当直、いわゆる「産直」について

お産を扱う病院には通常産直医師が泊まっています
お産は分単位で緊急を要する状態に陥る事があります
緊急帝王切開の判断しかり、母体搬送の判断しかり
そのような病態に対応するため、院内には産婦人科当直医が必要になります
当直体制を敷いていない病院でも、30分以内に病院に駆け付けられるような拘束医制で
対応しているはずです

この産直ですが、考えれば考えるほど
少人数でお産を扱える病院は、今後絶滅危惧種のように減っていくはずです

幾ら当直体制ではない、on callの拘束制としても
1人病院は論外として(未だお産を扱っている病院はありますが)
2人体制でも単純に15日/月
3人体制でも10日/月
の拘束です
その間1st callで、速やかに病院に駆け付けられる状態を保たなければいけません
また緊急帝王切開に切り替わる場合など、どうしてももう一人人手が必要になり
第2拘束医、2nd callの医師を備えておかなくてはいけません
この医師もまた速やかに病院に駆け付けられる状態でいなければいけません

そのような体制を少人数で維持する事
最早今後不可能です

一昔前の医療状況であれば
駆け付けた医師が酔っていても、例え分娩に間に合わなかったとしても、病院到着に遅れたとしても
そのようなものだとして、許容される場面があったかもしれません
ですが、現在の司法判断に基づいた医療(JBM)を行うに当たり
そのような言い訳はなんの弁解にもなりません
また、そのような状況を許容するような患者背景は、現在皆無です

そうであるならば、厳密なon call体制もしくは産直体制を敷かざるを得ません

仮に派遣元である大学病院から応援医を得たとしても
2人体制であれば少なくとも10日以上の産直or1st callに加え、さらに10日以上に2nd call
実に月の2/3以上を、いつ病院から呼び出しがかかるかわからない状況ですごす必要があります
3人体制でも月の半分以上です

そして産直はまだしも、拘束については何の手当てもつかない場合が殆どです
待機時間は労働時間に含まれないとの判断を、多くの病院が取っています

常に2nd callまで定められ、30分以内に駆け付けられるような拘束体制を敷かざるを得ない科は
産婦人科以外にほとんどありません
それが産婦人科医の使命であると、精神論で押し切ればそれまでですが
それでは今後産婦人科医療に新規参入する医師が先細りなのは、目に見えてます

誰であれ、自分の時間を有し、家族との団欒の時間を有し、趣味の時間を有したいと願います
それでも敢えて艱難辛苦の道を選ぶ事は、確かに素晴しいことではあります
ですが、そのような美談も持続可能な事ではなく、またそのような聖人君子たる人のみが産婦人科医
になるべしとの論も、この産婦人科医不足の現在あまりに楽観論にすぎます

多くの署名がなされます
この地域から産婦人科医をなくすなと

ですが、それはすなわちとどまる産婦人科医、呼び寄せる産婦人科医に
上記のような労働体制で働けと言っている事とイクォールなのです
それを踏まえての署名、決議、訴えなら、何も言うまいと思います

ですが、それが本当に持続可能な産婦人科医療なのか
産婦人科医の労働条件を勘案してのことなのか
もう一度考えて欲しいと思うのです
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医師不足そのまんまです。
医師不足と騒がれて久しいわけですが、その間医師不足は進行し続けています
対策は色々と打ち上げられてはいますが、どれも短期的に解決する手段ではなく
忘れ去られて消えていきます
どうする事が本当に医師不足を解消される妙案なのでしょうか。
そんなものはないと、わかってはいるけれど。

「医学部定員を増やす」
医師が第一線で働けるようになるまで少なくとも10年はかかりますが、それでもそれしか
ないでしょう。あとはその間どうしのぐかが問題です。ただ、10年後本当に医師不足分野の担い手に
この門戸を開いた新世代が適うかどうかは別問題ですが

「病院の集約化をする」
現在のEBM.JBMに基づいた医療をするには、マンパワーは必須です。幾ら1人科長、2人体制
でしのげと言われても、「どうせ逮捕されて、訴えられて、医師免許持っていくのでしょう?」と判断し撤退せ
ざるを得ません。地方ではアクセスが悪くなると言う大きな問題がありますが、アクセスが悪いような地域に
医師を集約化するまでには中長期的なスパンが必要です。その間そこで働く医師達に、
「耐えろ」「我慢しろ」「訴えられるリスクは確かにあるが」「それでも何とか耐えてくれ」「地元の俺たちが
今と変わらず医療を受けられるように」
と言える方々はどなた方でしょうか?
そこでの勤務を希望する医師が、その様な地域に赴くことは本当にすばらしい事だと思います。
ですが、本人以外、誰もそれを強制することはできないはずです。
アクセスが悪くなる地域の方々には不便を強いても、それでもなお集約化しなければ医療が持続可能と
ならない事は明白です

「医療費を上げる」
先の新聞報道では今回もマイナス改定のようです。お役人様、経済界のお偉いさんの頭は本当に
おめでたく、医療崩壊を推進してくれます。医療費を今以上に下げて、これまでの水準を維持しろとは
正気の沙汰とは思えません。まあ「今の水準を維持しなくて良いと言う、お墨付き」なのだと理解していま
すが。これまで以上に国民への個人負担を求めずして、今の医師不足が解消すると思えません。
その結果医療費が上がることもやむなしのはずです。「いや、効率化すればマイナス改定でも現状維持、
向上が望めるはずだ」と言う方は、どなたでしょうか?

「嫌ですよ。そんなの。やる気削がれましたし。出来るものなら勝手にどうぞ。協力はしませんけど」
 →立ち去り型サボタージュ。かなり認知度が高まったはずですが、伝わってはいないのでしょうか

「医師バンクで人事権確保」
確かに可能となれば、僻地の医師不足もある程度解消します。そのような試みも各自治体で行われて
います。女性医師の復帰支援、非常勤医師としての雇用体制、2年の勤務後は1年の有給研修など
特色ある募集で躍起となっていますが、どこも医師の登録は厳しいようです。
それはそうだと思います。公務員としての身分確保を謳っている所もありますが、それが魅力になると
思っている所で立脚点が違っています。医師は医師免許を有する限り、職に困る事はありません。
公務員以上に安定した立場に最初から立っています。職を求めれば、大概の地域で、相応の収入を
得る事が可能な職種です。その医師の人事権を握るには余程の力が必要です。
それが今までは大学医局でした。確かに医局には指導してもらった恩、人間関係的な情、学位をもらう
弱みと言った多くの要素が絡まりあい、強力な人事権を有していた時代がありました。(今ではかなり
弱体化しましたが。)
そのように医師の人事権を操るには一筋縄ではいかないという事を、どれだけ自治体が理解しているのか
疑問です。人事権を握るには、相応のgive&takeの関係を築ける位の力が必要です。

続く

看護師の内診問題について
医療系ブログでもいくつか取り上げていらっしゃるブログがあります
同じ医師でも他科の先生にはわかりにくい問題ではありますし、ましてや一般の妊婦さんや
非妊婦さんには真相がどうなのかよくわかっていらっしゃらない問題でしょう
何しろ産婦人科医の自分も、事の顛末がよくわかっておりません

何となく自分が理解している範囲のコメントです

・看護師の内診は違法ではない
 →新しく改正された保助看法では看護師の職務に「助産の介助」が入っています
・元々看護師の内診を規制する法律はない
 →厚生労働省看護課長の通達のみ
・看護師の内診が違法との判例はない
 →問題となった病院は不起訴となっている
  →ただし昨今の医療事情を勘案しての不起訴であり、有罪とする法的根拠が希薄なのかは不明
・産婦人科医側としては、看護師の内診はOKとの合意がなされていると認識
 →医師・助産師・行政の3つの合意が形成されているとの認識
  →産婦人科側からはofficialな雑誌で「もう安心です」との強気なコメントが載っている
   →ただし助産師側からそれを追認する発言はなし
     →行政側からもそれを認める確かな発言はなし
     →産婦人科医側の独りよがりな認識?暗黙の了解と言う大人の決着?
       →どちらにせよ不透明な決着の仕方
・助産院の嘱託医・契約病院に配慮する代わりに、看護師の内診を黙認すると言う政治決着?
 →現場サイドに情報は降りてこない
・助産師側は看護師の内診をofficial上は認めない姿勢を変えていない
 →情報はどこまで降りているのか
・マスコミは情報を把握していない?
 →看護師の内診が認められたとの報道はされていない
  →マスコミの報道がなければ非医療従事者に情報は届かない
   →看護師の内診は未だ違法であり、あり得ないとの認識
    →この人は助産師ですか?との質問は未だ続く

現場サイドと各機関のtop間の認識にずれが生じている問題の典型です
踊る大捜査線の青島巡査部長じゃないですが
「事件は会議室で起きているんじゃない。現場で起きているんだ」
と思ってしまう事案です

私は看護師の内診は医師の指示があればなされて当然だと思いますが
やりたくない看護師に無理やりしてもらう気もありません
できれば助産師に管理してもらうのが良いとは思います
看護師、助産師の内診で母体に影響を与える問題に差が出るとは思えませんし
実際産科看護師が業務を担っている施設は、そのままでも別に問題はないと考えます
ただ、現場で法的にOKなのか否なのか、グレーゾーンを設けて、あとは現場の判断でとは
無責任すぎます

駄目なら駄目で、法的に規制しできないようにするべきです
それに伴うお産難民の発生も受け止める覚悟を、多くの国民が持つならば。
そうでないならば、合法の旨を周知させ、現場で働く医療従事者に後ろめたい思いをさせないように
するべきです。


認識、記載に誤りがあれば、指摘していただけると幸いです

医師不足が解消しません
産婦人科では医師の集約化は避けられず
地域からお産のできる施設、妊婦健診を受けられる施設が減っていってます

その集約化の波はどうしようもありません
医師がその地域にいないのですから

ではその地域に医師を増やせるでしょうか?
増やせる地域もあるでしょう。自助努力でフリーの医師を一歩釣りで捕まえたり(招聘したり)
県の権限で移動できる医師を増やしたり
ですが、どれも根本的な解決法ではなく、2,3年の短期間で医師不足を解決するのは
最早無理です

今はこれ以上地域から医師を減らさない、流出させない方策を作る事が優先されます
勿論長期的に医師の招聘を目指さなくてはいけないのは、言うまでもありません
ですが、現在の状況を改善せずして、長期的に医師を地域に呼び込むことは
絶対に無理です

マスコミは言います
「どうして患者を受け入れないのか」と
「また義務を忘れた医師たち」とまで書いた新聞紙がありました(産経新聞社説ですが)
現場で働く医師達の志気を削ぐのに熱心な人たちは一定数存在します
確かに
患者を受け入れられない、24時間の安心を保てない、もしもの時にどうするか
それは身近な不安材料ではあります
自らの事として考えれば、そんなシステムは納得できないと考えるのも理解できます
特に社会の中心で世論を作る方々は、ある程度年齢を重ねてきた方々です
そんな自分がもしもの時病院に受け入れてもらえない、自分の家族が病院受診を拒否される
それが身近な断罪すべき事例として、感情的に批判する事は不安の裏返しでもある事を考慮すれば
無下に非難する事はできません

ですが、そこでやはり思考停止に陥らず、発言をしてもらいたいと思うのです
医師のやる気を削ぐ発言をするメディア、コメンテータは存在します
それが冷静な分析による、説得力を持つ意見であるならば、現場で必死に働く医師も聞く耳を持つでしょう
ですが、多くは不安の裏返しによる感情的な非難で、実効性・現実性を持った提言になり得ません
そんな言葉達は、現場で働く医師の心に届かず、むしろそのような発言をする世論との距離は遠のき
立ち去り型サボタージュは進行していきます
それが、そのメディア・コメンテータの望むべきあり方でしょうか

産婦人科医療に関すれば
未だ助産院の嘱託医、提携病院を産婦人科医に定めた医療法改正について
「開業権の侵害」として撤回を求める運動も続いています
助産院自体を否定するつもりは毛頭ありませんが、少なくとも産婦人科を嘱託医としておかない
もしもの時に搬送できる産婦人科を有する病院と契約していない助産院は
産婦人科医療に身を置くものとして、信頼できません
「総合周産期医療センターなどは助産院から連携の依頼があった場合、受け容れる事を義務化せよ」
などの意見は現場で働く医師に、脱力感を覚えさせる以外のなにものでもありません。
双方の信頼があっての医療連携です。
少ない産婦人科医で何とか日々の業務を行っている現場に、信頼をおけない施設からの搬送依頼
がどれだけのストレスを医師に与えるかわかっていないのでしょうか

1%の分娩数を取り扱う助産院は確かに産婦人科医不足の中、注目されてしかるべきだと思います
ですが、その施設が現在の産婦人科医療のスタンダードな医療水準を保てないならば
そのような施設は淘汰されるべきです
当然そのようなリスクを考慮してもなお、そのような施設で産むと言う選択権があるはずだとの意見も
あるとは思います
ですが、その場合も「駄目でした。残念でした。諦めましょう。」
と言う事には今の日本の医療ではなり得ません。
必ず何らかの医療施設へ搬送されることになるでしょう。
現在の医師不足の中、その搬送がどれほどの医療資源の消費になるか考えた時
医師過剰のご時世ならまだしも、現在の状況ではそのような選択肢は「わがまま」以外の何ものでも
ないと考えます
地域の周産期施設と契約をできない助産院は、その地域の周産期医療体制に必須のものではない
と考えざるを得ません

現在の医師不足を考えると、改善する気配が全くありません
むしろ地域では悪化の一途です
そのアクセルを踏んでいるのは誰ですか?


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夜の3時に病院のPHSが鳴ります
隣で寝ている妻と子供を起こさないように、枕もとのPHSに手を伸ばします
寝ぼけた声で電話に出ないように心掛けながら
「今日は第2拘束でもないフリーの日だったよな。」
そう思いながら、通話ボタンを押し
「はい、西川です。」
冷静になろうと思いながらも、夜更けの電話につい無愛想になってしまいます。
「夜分すいません。病棟の城ケ崎ですが、菊谷先生と柏崎先生からグレードAカイザーと、お産になりそうなVBACの患者さんが重なってしまった為、西川先生に応援を頼めとのご連絡でした。」
病棟助産師の城ケ崎が、慌てた様子で状況を説明します。
緊急帝王切開に術者と第1助手で当直の菊谷先生と、柏崎先生が入れば、病棟から産科医がいなくなります。
その間に進行しているお産がVBACの患者であれば、助産師任せにはしておけません。

今日の休みは久しぶりに朝ごはんを家族で一緒に食べて、娘の好きなアニメの映画を見に連れて行ってやりたかったのにな…。
娘の泣き顔が頭をかすめます。
何度となく緊急で呼び出され、約束を反故にしてきたとは言え、約束を破る度心が痛みます。

「わかりました。すぐ行きます。15分位で病棟に行くと先生達に伝えてください。」
感傷を拭い去り、諦めの気分で仕事モードに頭を切り替えます。
吊下げてあった服に腕を通しながら、ベッドに目を向けると妻が起き上がり心配そうな顔で声をかけます
「また緊急カイザー?」
付き合っている時から、何度もその言葉でデートを途中で切り上げた為か、元消化器病棟の看護師の妻もすっかり産婦人科用語に詳しくなりました。その分今回の緊急の程度もわかってくれているようです。
「グレードAのカイザーと、VBACの患者がいるみたい。急ぎで行ってくるよ。奈津美にはすまないって。」
第1、第2拘束でもないフリーの日とは言え、今までに緊急で呼ばれた回数は少なくありません。
その度駄々をこねる娘に向かい

「お父さんは大事な仕事をしているの。大事な命がきちんと産まれてきますようにって。奈津美みたいに元気な赤ちゃんが、ちゃんと産まれてきますようにって。赤ちゃんと、そのパパとママの為に頑張っているのよ。
だから、泣いてお父さんを困らせたら駄目よ。ちゃんといってらっしゃいって言いましょうね。」
5歳になる娘にそう語りかける場面を、何度も目にし、その度娘と支えてくれる妻に申し訳ない気持ちになります。

「急いで帰ってくるよ。そんなに時間はかからないと思うから。」
時間がかかるかもなと、頭をかすめた思いを脇に寄せて笑顔を作って、2分でほぼ身支度を整えた後で妻にそう言います。
「無理しないでね。昨日も遅かったでしょ。体を壊さないか心配で…。」
心配そうな顔は今回の緊急性だけではなく、繰り返される過重労働に対する心配の顔でもありました。

どんなに働いても20時間でカットされる時間外勤務手当
決して充足される見込みのない慢性的な人手不足
いつ我が身に降りかかるかわからない訴訟のリスク

それでも、行かなくてはなりません
大事な仕事をしていると、妻が娘に語りかけた職種に身を置く内は
いつ心が折れるか、体が限界を迎えるか
それは決して遠くないことだろうと漠然と思いつつ、まだ決めかねているその間は

「行ってきます。」

そう言って、まだ暗闇の中病院に向かいます
PHSの呼び出しから5分後の事でした

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産婦人科のよくある風景
珍しくもなく、日常に紛れる風景
でもこの人たちが、最後の砦となって、産婦人科の「今」を守っています
この人たちが前線から撤退すれば、倒れれば
地方の周産期医療は簡単に崩壊します
そしてそれは、身近な場所で起こる事かもしれません

どうか今一度、産婦人科医に花束を



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