市民「地元の産科医不足が深刻で、知り合いの娘さんも里帰り出産を断れたって困っていました。」
他人「それは大変ですね。今はどこも産科医不足と言われていますね。」
市民「まだ妊娠12週位なのに、ここで産むか決めて予約を取って下さいって言われるんですよ。そうしないと予約枠が一杯になって産めなくなりますって。」
他人「産科医不足で里帰り出産を制限していたり、半年以上先の分娩枠まで埋まっている病院もあるようですね。」
市民「こうして地元の病院で産めないと余計少子化に拍車がかかるんじゃないですか?」
他人「そうですね。ただ病院も地元の人のお産だけで精一杯と言うのが実情なんでしょうね。」
市民「私達の市ではまだお産を扱っている病院や産院が幾つかありますけど、他の町では全くお産を扱う病院が無くなって、隣の市まで妊婦健診に通っています。何かあったらと心配で。」
他人「交通の便が悪い地域や、自分で車を運転できない妊婦さんなどは大変でしょうね。」
市民「本当にそうですよ。何か病院の先生方がどんどん辞めて、その上次の先生が来なくて、産科自体なくなるらしいです。婦人科は月に数回大学病院からバイトの先生が外来に来るらしいですけど。」
他人「大学病院の医局もどこも人手不足ですからね。新入局員も少ないようですし。」
市民「どうしてここ最近医者不足、特に産科医不足がこんなに酷くなったんでしょうか?何か対策はなかったんでしょうか?」
他人「産科医不足の原因は何だと思いますか?」
市民「ニュースなどでは過酷な労働条件で医者が逃げ出したとか、訴訟が多くて逃げ出したとか。」
他人「そうですね。産科医に限らずですが、医師不足の病院では劣悪な労働環境で勤務する医師が多いです。そして産科は24時間いつお産があるか分からず、拘束時間が長い事が余計に労働条件を悪化させているのでしょうね。」
市民「よく拘束時間が長いって言われますけど、何とかならないんですか?」
他人「拘束時間を短くする為には人員を増やすしかないでしょうね。」
市民「でもどこの病院も医者不足なんですよね。実際増やせる見込みなんてあるんですか?いなくなった医者の補充もできないのに。」
他人「そうですね。人員を増やすには辞める医師を減らして新しく入る医師を増やすか、お産を制限して受け持ち患者数を減らすか、もう一つは医師の集約化位しか方法は無いでしょうね。」
市民「どの方法でも患者の負担が増えるのは避けたいです。どうしたら負担なく増やせるんでしょうか?」
他人「難しいですね。どの方法でもある程度妊婦さん、患者さん、そしてそれ以外の地方の人の負担は増えざるを得ないでしょうね。」
市民「どうしてですか?例えば新しく産科を選ぶ医者を増やせば、良いだけの事だと思いますけど。」
他人「ですが、現状を変えなければ産科を新しく選ぶ研修医、学生は増えていかないですよね。また、同じく現状を変えないと産科を辞めていく、若しくは分娩に携わる事を辞めていく医師を減らしていけません。」
市民「現状を変えるには人員を増やすしかないんですよね。環境を改善して医者を呼び込む為にはその前に人員補充が必要、そんな難しい事どうしたら可能になるんですか?」
他人「ですから産科医不足が止まらないのでしょうね。その上訴訟が多い事も産科医不足に拍車をかけているのも事実です。」
市民「人員補充が難しいのも分かります。労働条件が厳しいのも分かります。でも、それでも、安全な医療を当然患者は求めているんです。何かあった時、不適切な医療がされていたら訴えるのは仕方がないと思うんですが。」
他人「勿論明らかな問題があれば法に照らして裁かれるべきです。残念ながら明らかなミスと言うのはあり得ます。その場合補償も含め裁判に訴えるのは当然の権利でしょう。」
市民「じゃあ、産科医不足の原因の一つになっている訴訟はそうじゃないって言うんですか?訴訟が多いのはその分未熟な医療が産科で多いからで、仕方がないんじゃないでしょうか。それに例えば子供が障害を一生背負っていく事や、不幸にも妊婦さんが亡くなったりしたら誰でも訴えたくなりますよ。」
他人「それも勿論明らかなミスがあれば裁判ではっきりさせるべきです。ですが、一定の確率で妊産婦死亡はあり得ます。また脳性麻痺などの障害を持った子供も、22週の児でも救命できるようになった日本の周産期医療の進歩で逆に確率的に生まれえます。誰が悪いと言うわけではなく、出産の過程の中で避けられない不幸なケースは現在の医療水準では起こり得ます。」
市民「確かにそうかもしれません。ですがそうやって全部不幸なケースで済ませていたら、明らかなミスが見過ごされるじゃないですか。人の命、それも妊婦と新生児と言う二人の命を扱う職種だからこそ、仕方ないでは済まされないですよね。」
他人「仕方がないで済ませる事は勿論誤りです。その事例についてはきちんとした経過の見直しも必要でしょう。ですが、そのように避け得なかった事例に対してもセンセーショナルに煽り立てるマスメディアの影響は、現場の医師にとって大きな負担でしょうね。」
市民「事実の報道は大事だと思いますけど。そうしないと結局関係者だけの密室で終わらせてしまいそうだし。」
他人「事実の報道は必要です。ですが対案無き批判、若しくは現実性を伴わない批判は結局医師を防衛医療に走らせる事になり、ハイリスクの患者を扱う病院自体減少し、産科医不足を加速させるでしょうね。」
市民「もう一つの医者の集約化ですけど、そうやって医者を集めてしまったら地域の妊婦はどうしたら良いんですか?通うのは不便ですし、何かあったら心配ですよ。」
他人「同じような意見で産科医療センター化構想への批判はありますね。」
市民「それにそうやって医者を沢山集めて機械的に、ベルトコンベア式にお産をさせるって言うのはどうかと思います。」
他人「機械的、ベルトコンベア式と言うのはどういう意味ですか?」
市民「医者の都合で陣痛促進剤を使ったり、帝王切開をしたり、週末のお産は避けたり、それにその時たまたま当直の医者がお産をしたりと、一生に何度もない大切な瞬間なのに自分らしさがなくなりそうじゃないですか。」
他人「安全を考慮しての医療の介入は必要だと思いますが。ではどのようなお産が望ましいと思いますか?」
市民「それは勿論安全で、かつ自然な分娩で。今はテレビでもアクティブバース、バースプランなど自分で自然なお産を追求する風潮がありますよね。そう言う自然な形のお産とかけ離れた分娩に、センター化にするとなってしまうんじゃないですか。」
他人「安全と自然を両立するのは実際には難しい事です。勿論自然に分娩が進行すれば問題なく、妊婦さんの希望も分かりますが、産科医不足の現状では妊婦さんの希望に沿った通りに出来るか難しいところですね。」
市民「助産師さんを活用すれば今の産科医不足、産科医の負担も幾らか解消するんじゃないですか。それに妊婦さんの希望も叶いそうだし。」
他人「最近マスメディア、地方の病院でも助産師を積極的に活用しようと言われていますね。助産師外来などを設けている病院もありますし。」
市民「そうですよ。分娩の殆どが、医療の介入を必要としない正常分娩なんですよね。その範囲は助産師さんに任せて、産科医は本当に治療を必要とする場合だけ登場すれば良いんじゃないですか?」
他人「理想的にはその通りでしょうね。ですが、お産は正常な経過を辿っていても突然問題が発生することがあります。分娩経過中に帝王切開に移行する事が必要な場合もありますし、新生児仮死の場合当然医療介入が必要になります。」
市民「そんな時はすぐ産科医や新生児科医に診てもらえば良いじゃないですか。」
他人「うまくそのような病院と提携が出来ている産院や、人員にある程度余裕があり当直体制を敷いている病院なら可能でしょう。ですが、助産師が扱う分娩が増えてもバックアップする体制がなければ何かあった時に対応できないでしょうね。そうすると医師の拘束時間は変わらず、また問題が生じてから突然搬送されたハイリスクのケースに対応しなければいけないなど、医師不足の現状では難しい点もあります。」
市民「結論として産科医不足はどうしたら解消するんですか?」
他人「今年、来年と言う短期的な解消は難しいでしょうね。今は一つ一つ問題点を改善していくしかないと思います。」
市民「その間患者は不安を抱えながらですか。」
他人「同時に現場の医師は負担が減らないままです。」